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秋山財団 ー未来像・2011からー

―未来像・2011から―                               2012.1.24

<はじめに>
秋山財団は、1987(昭和62)年の設立以来、今年度で25周年を迎えます。当財団は、設立趣意書に掲げられていますように、医学、薬学、農学、獣医学、水産学、理学、工学などの幅広い隣接分野を擁する「生命科学」の基礎研究を促進し、その成果を社会開発の新たな方策に生かすことを趣旨として、「研究助成」を開始しました。
その後、「いのち」を機軸として道民福祉の向上に寄与することを願い、環境保全、まちづくり、食・農実践、共生社会の各分野において、課題の解決に向けて真摯に取り組んでいる市民を支援する「社会貢献活動助成」を立ち上げました。
さらに、北海道において、さまざまな領域で直面する新たな社会的課題を解決するために、ひとつの目標に向かって多様な人々が、分野横断的に連携し、新たな公共の担い手を目指す「ネットワーク形成事業助成」にも着手したところです。
一方、褒賞事業では、「秋山財団賞」を21回、引き継いだ「新渡戸・南原賞」を8回、継続しています。
設立後2年目から、当時の「試験研究法人」(後の「特定公益増進法人」)の認可を受け、2009(平成21)年12月に「公益財団法人」の認定を受け、新たな制度の中で、今まで以上に助成事業の「自主性」、「自立性」が価値を高め、事業の検証を含めた日々の努力が必要とされています。
そして今年3・11の大震災を契機に、今、日本自体は大きな転換期であり、社会の価値観も大きく変化してきています。「生命科学=いのち」、「北海道」、「地域・民間・自立」財団という秋山財団の設立当初の初心を踏まえて、内外ともに節目の年にもう一度原点に立ち返り、次の四半世紀を展望したいとの思いで、「未来像2011から」を策定します。

<これまでの実績>
秋山財団賞          20件     4,000万円
新渡戸・南原賞         6件       300万円
研究助成等          928件     60,360万円
社会貢献活動助成        93件     4,206万円
ネットワーク形成事業助成 23件(延べ) 5,220万円
合計            1,070件    74,086万円

<現状認識>
現在、避けることのできない大きな課題としてわれわれが直面するものに、地球規模の環境問題、経済・金融危機の頻発、安全・安心な地域社会の崩壊などがありますが、これらの課題は設立当時の財団を取り巻く社会に、既に萌芽的に現れていました。
しかしながら、グローバル化の急激で大規模な進展により、これら社会状況が、これまでになく急速に変化する新たな局面に入りつつあります。また、冷戦終結後の国際秩序の不安定化や、EUに見られる新たな地域統合もまた諸問題を抱えて流動的であり、アジアの一員として、われわれの生き方、考え方に変更を迫る要因となっています。さらに今年の「3・11東日本大震災」は、これまで創り上げた社会に、地震、津波、原子力発電所爆発事故の甚大な被害を及ぼし、現在の科学と社会との関わりに、重大な問題を提起しています。
課題解決の担い手に目を転じますと、これまで「官」が担ってきた公的サービスを、ボランティアやNPOなどが果たす役割が大きくなってきており、企業もCSR活動に一層力を注いだり、「新たな公共」の担い手が成長しています。このような「新たな公共」のうねりは、秋山財団の設立当時には見られなかった動きです。
時代の大きな変化は、われわれの社会のしくみや日々の生活を根本から変質させると同時に、また新たに創り出すチャンスでもあり得ます。当財団は、時代の変化のとば口に立っていると認識しています。

<過去25年の総括>
事業活動では、健闘してきました。2010年ノーベル化学賞を受賞された北海道大学の鈴木章先生は、受賞の19年前、1992(平成4)年に当財団の研究助成を受賞されています。この例ばかりではありませんが、北海道における生命科学の基礎研究者育成の目的はしっかり遂げられつつあり、これを誇りとすべきだと思います。この活動軸は、今後も継承していくつもりです。
その基盤となる選考委員の皆さんによる熱心な選考、理事会・評議員会においてその結果を尊重する姿勢、これらは研究助成、活動助成に共通する当財団の重要な価値観で、今後も引き続き守っていきたいと思います。
一方で、「生命科学」というテーマに対して、従来型の研究領域を突破するような当財団独自のメッセージは出しきれていかったのではないか、「生命科学=いのち」以上の社会への提起は不十分でした。テーマ「生命科学」を掘り下げるべきです。
もう一つ、「人材・人財育成」の視点であれば、もっと若年層への支援、社会的弱者への支援等が明確であってもいいのではないか、との指摘も真摯に受け止める必要があります。
財団運営上は、財政的な裏付けはこの25年間、経済の低迷期だったにも関わらず、設立から各種寄付、基本財産の充実等、税務課題をクリア―しながら、多くの個人・企業に多大なご協力・ご支援を頂き、極めて順調に基盤を創ることが出来ました。これからのファンドレイジング活動は、活動のすそ野の拡がりを含めて、一層の工夫が求められるでしょう。

<向こう25年の方向性>
以上のような認識を踏まえて、今後を展望したいと思います。
まず財政的には、今現在、基本財産の飛躍的拡充はこれまでのようには見込めません。経常的に外部からの寄付等、ソーシャルメディアを活用したファンドレイジングをきめ細かく行っていく必要性があります。インターネットのホームページをフルに活用して情報発信機能を高め、それを収入に結び付けて、財政的基盤の拡充を図っていきます。
事業的には、次のような視座に留意します。
1)「生命科学」を人間のみならず、地域を対象とした科学として視野に入れる。地域を生命体として捉え、経済的な循環(エコノミー)、環境生態系(エコロジー)、さらに伝統文化の継承・発展等、地域科学分野を含めた活動支援。そして、成果の検証も行う
2)財団としてのアウトリーチ活動を行う、例えば、一般市民向けの「生命科学」講演、出前講座の開催、ライフサイエンス・カフェ等
3)硬直した国・自治体の政策・制度に代わり、社会的課題に速やかに、柔軟に解決していく活動
4)「人材・人財育成」活動は、
a)次の時代を担う世代を、もっと早い時期から視野に入れるべき。活動助成については、対象として中学生・高校生・20歳前世代へのアプローチを、テーマ的には若年労働者の雇用促進につながることも検討する
b)「科学リテラシー」を高める「教育」への貢献
5)活動助成について、
a)「地域の創造的社会システムの構築」として、経済効果、環境負荷の軽減効果等、科学的な地域分析の手法を取り入れたアプローチの組み入れ
b)「北海道に根差した地域研究」として、独自の伝統・文化を北海道の発展に結びつける取り組み支援、例えば、アイヌ文化の振興と価値創出、地域主権下での北海道開拓・開発政策の進化等

<おわりに>
年報創刊号の巻頭言に、当財団の名付け親である伴義雄理事が書かれています。
「・・・・このように、自然科学を専攻する者にとって感動的な生命現象の解明へのステップも、他の分野、特に人文・社会科学系の方々には、生命の尊厳があたかも単なる原子・分子の集合体であるロボットのように扱われていると、拒否的に受け取られたとしても無理からぬことである。私自身、その成果を感銘深く知ったのであるが、そこに自己の生命観を持ち込んで理解するようなことは、いささかも考えなかった。しかし、その後、存在としての生体そのものの在り方が鮮明になることによって、かえって生命への認識を新たにしたように思う。私は、自然科学的生命観の樹立に、宗教や哲学が介入する余地が十分あるように思われてならない。
確かにライフサイエンスの著しい進歩は、人間の福祉に大きく貢献する一方で、人間の存在と尊厳に深く関わるような問題が提起されていることも周知のことである。たとえば遺伝子操作、人工授精、臓器移植等は、社会倫理の立場から慎重な対応が求められている。私どもとしても、この点には十分配慮しつつ、21世紀へ向けての重要課題に取り組むべきであろう。・・・・」

「生命科学(ライフサイエンス)」をテーマに、北海道から発信する「民間・自立」という秋山財団の設立の初心を踏まえて、内外ともに節目の2011年に、もう一度原点に立ち返えり、次の四半世紀に向けた「覚悟」を明確にしたいとの思いです。

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